カニに寄生するフクロムシという生物がいます。その名前から想像できる通り袋状の体をした寄生生物です。寄生虫というと、宿主の体内にこっそり居候して迷惑をかけない程度にささやかな栄養を失敬するという控えめなイメージがあります。
このフクロムシは想像を絶する図々しさを持っています。カニのオスにもメスにも寄生するのですが、問題はオスに寄生した場合です。
フクロムシがオスに寄生した場合、初めのうちはオスの体内に張り巡らせた細い枝状の器官を通して栄養を吸収しています。やがてカニの生殖器官に介入し、繁殖能力を失わせてしまいます。これは専門用語では寄生去勢と呼ばれます。
成体のカニは脱皮を何回か繰り返して成長しますが、フクロムシに寄生されたオスのカニは、寄生去勢の結果、脱皮のたびに外観がメス化します。ハサミが小さくなり、腹部もメスのように幅が広くなっていきます。それと同時にフクロムシも成長し、あたかも卵を抱えて大事に守っているメスそのものの外観になります。
フクロムシに寄生されたオスは繁殖能力がないため、進化上の対抗措置をとれません。ただフクロムシに栄養を与え続けるために生かされているうえ、メス化までさせられてしまうとは、他人事ながらもなんだかやりきれない思いがします。